☆はじめに〜HPをお読みいただく皆様へ
☆2001年3月法案
前文
第一章 総則
第二章 避妊
第三章 人工妊娠中絶
第四章 性と避妊の相談室
第五章 届け出、禁止その他
第六章 罰則
付則
☆参考;1997年11月版の法案 (旧バージョン)
☆参考;現在の母体保護法条文
☆参考;刑法堕胎罪
☆はじめに〜HPをお読みいただく皆様へ
「からだと性の法律をつくる女の会」は、1997年11月に「避妊、不妊手術および人工妊娠中絶に関する法律(案)」を発表しました。以来、さまざまな分野の方々が法案に関心を寄せて下さり、貴重なご質問やご提案を寄せて下さいました。私たちは、それらのご意見を参考に月例会などで討議を重ね、今回新たな修正案「避妊および人工妊娠中絶に関する法律(案)」を作成しましたので、ここに公開いたします。
97 年案と異なる点や条文の意図については、各章ごとに【備考】に記しました。今後もこの「2001年3月法案」をもとに、さらに検討を加えてゆきたいと思います。
なおいっそう、多くの方々のご意見・ご批判をお待ちしています。
「からだと性の法律をつくる女の会」は、毎月原則として第3金曜日に例会を開いています。参加をご希望の方、また、毎回は出席できないが連絡はほしいという方、どうぞご連絡下さい。
〜1997年11月「避妊、不妊手術および人工妊娠中絶に関する法律(案)」と異なる点、条文の意図などを【備考】に記した〜
前 文
我が国の生殖に関する法規定は、刑法堕胎罪と優生保護法ならびに母体保護法であったが、女性ならびに障害者に対する差別が存在した経緯があり、近年国際的な共通認識となったリプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康/権利)の概念に照らして、生殖における個人の基本的人権に配慮があったとは言えない。この事実を重く受け止め、これを教訓として今後に生かすことが必要である。
リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康/権利)の中心にあるのは、個人が自らの身体、性、生殖について正しい情報を入手し、子どもを産むか産まないか、産むとしたらいつ、何人、どのような間隔で産むかを自ら判断し決定する基本的人権である。この決定において、個人とくに女性に対する人権侵害があってはならず、また障害者に対する差別と偏見が介在することがあってはならない。我が国においても、共生社会の実現に向けて、この概念にもとづく生殖に関わる施策が必要である。この観点に立って、この法律を制定する。
【前文に関する備考】
◆以下の条文の解釈指針とするため、前文をもうけた。解釈指針としてより明確にするため、本則の中に書き入れることも検討中である。
◆女性に対する人権侵害があったと指摘する理由は、堕胎罪がすべての中絶を処罰の対象とし、生殖における女性の選択の自由を奪っていること、妊娠の一方の当事者である男性を処罰の対象とせず、両性の平等に反していること。
◆障害者に対する人権侵害があったと指摘する根拠は、優生保護法には不妊手術の強制規定があったこと、障害者の生殖の権利の否定を含んでいたこと。「優生保護法の一部を改正する法律」(注)は、改正の理由を「現行の優生保護法の目的その他の規定のうち不良な子孫の出生を防止するという優生思想に基づく部分が障害者に対する差別となっていること等にかんがみ、所要の規定を整備する必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。」としている。
(注)1996年、第136通常国会。優生保護法はこの一部改正の後、母体保護法となった。
◆優生思想は、「健常」な子供だけを産むことを求める点で、女性にとっても苦痛であり抑圧である。このことからも、「子どもを産むか産まないかの決定に障害者に対する差別と偏見が介在することがあってはならない」とした。
◆優生保護法一部改正の附帯決議(1996年6月17日
参議院厚生委員会)は、次のように言っている。「政府は、次の事項について、適切な措置を講ずべきである。
一、この法律の改正を機会に、国連の国際人口開発会議で採択された行動計画及び第四回世界女性会議で採択された行動綱領を踏まえ、リプロダクティブヘルス・ライツ(性と生殖に関する健康・権利)の観点から、女性の健康等に関わる施策に総合的な検討を加え、適切な措置を講ずること。右決議する。」
また1995年(優生保護法)と2000年(母体保護法)に、受胎調節実地指導に必要な医薬品の販売に関する条項の5年延長が採択され、その時にもリプロダクティブ・ヘルス/ライツの推進が決議された。
◆「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(1998年)の前文から、次の文章を参考にした。
「我が国においては、過去にハンセン病、後天性免疫不全症候群等の感染症の患者等に対するいわれのない差別や偏見が存在したという事実を重く受け止め、これを教訓として今後に生かすことが必要である。」
◆国際的な共通認識の根拠は、次の通り。
我が国が批准した「女子差別撤廃条約」は第2条の(g)で、「女子に対する差別となる自国のすべての刑罰規定を廃止すること」を、16条(e)で「子の数及び出産の間隔を自由にかつ責任をもって決定する同一の権利並びにこれらの権利の行使を可能にする情報,教育及び手段を享受する同一の権利」をうたっている。また、第4回世界女性会議行動綱領は、106−(k)で「違法な妊娠中絶を受けた女性に対する懲罰措置を含んでいる法律の再検討を考慮すること」としている。
第一章 総 則
(この法律の目的)
第一条 この法律は、個人のリプロダクティブ・ヘルス/ライツを保障するために、避妊及び人工妊娠中絶について定めることを目的とする。
第二章 避 妊
第二条 この法律で避妊とは、妊娠を避けるための一時的及び永久的な方法をいう。
第三条 永久的な方法による避妊を希望する者は、本人の意思のみによって永久避妊手術を受けることができる。
【第二章に関する備考】
◆目的を明確にするため、「不妊手術」という言葉を「永久避妊手術」とした。
◆永久避妊手術は、希望する本人からの申し出によってのみ行うこととする。その際、十分な説明が提供されること、その説明を理解したかどうか、理解した上で手術を受ける意思があるか、について確認を要することとする。本人の意思によらない永久避妊手術は処罰の対象とする。
第三章 人工妊娠中絶
第四条 この法律で人工妊娠中絶とは、妊娠した女性が出産に至る前に、人工的に妊娠を中断することをいう。
2 人工妊娠中絶は、医師によって行われるものとする。
第五条 人工妊娠中絶を希望する者は、本人の意思のみによって人工妊娠中絶を受けることができる。
2 人工妊娠中絶は、胎児が女性の体外で生命を保続することのできない時期に行う。
【第三章に関する備考】
◆「人工妊娠中絶」には、手術による場合と薬による場合の両方を含むこととする。
◆中絶は「医師によって行われる」としたが、女性が自ら中絶を行うことがあっても、違法としない。
◆中絶が可能な時期を「胎児が女性の体外で生命を保続することのできない時期」としたが、週数は政令または省令で定めることとし、その変更が行われる場合は、審議の過程が公開され、国民とくに当事者の女性の意見が反映される仕組みがなくてはならない。これまでのように、変更が非公開で決定されたり、事務次官通知のみで知らされるという方法を改めたい。
第四章 性と避妊の相談室
(セクシュアル及びリプロダクティブ・ヘルス/ライツの情報提供及び教育・相談)
第六条 国および地方公共団体は、セクシュアル及びリプロダクティブ・ヘルス/ライツに関する情報の提供、教育、相談、および避妊具・薬の提供を行うために、保健所その他保健・医療関連施設、女性センター、学校などの施設に「性と避妊の相談室」を設置する。
第七条 国および地方公共団体は、セクシュアル及びリプロダクティブ・ヘルス/ライツに関する情報の提供、教育、相談、および避妊具・薬の提供を行う民間機関に、その経費を補助する。
第八条 「性と避妊の相談室」には、次に定める性と避妊の相談員を配置しなければならない。また、嘱託の医師を置くことができる。
2 性と避妊の相談員は、厚生労働大臣の定める基準に従って行われる講習を修了し、都道府県知事の認定を受けた者とする。
3 厚生労働大臣が指定する避妊具・薬の販売および避妊具を直接女性のからだに対して使用する避妊具の実地指導は、医師および相談員として認定を受けた保健婦、助産婦、看護婦が行うことができる。
4 保健婦、助産婦、看護婦以外で相談員の認定を受けた者は、情報の提供、相談を行うことができる。
【第四章に関する備考】
◆本会の、97年11月法案では「からだと性の相談所」という名称を使用していたが、目的をよりはっきりさせるため、「性と避妊の相談室」とした。「室」としたのは、女性達のグループによる小さな規模の相談室も、この法律による相談室として成立させたいからである。
◆現行の「母体保護法」に規定されている「受胎調節実地指導員」の有資格者を、「性と避妊の相談員」として移行することは必要であると考えられる。第四章の規定では、保健婦、助産婦、看護婦の資格を持つ者持たない者、どちらでも新たに「性と避妊の相談員」になれることとし、医師、保健婦、助産婦、看護婦の資格を持たない相談員は、情報の提供、相談、医薬部外品の販売を行うことができるとした。
しかし、この規定で適切か否かを再考している。医師、保健婦、助産婦、看護婦の資格を持つ人、持たない人の二種類の相談員を認めることは適当か? 医師、保健婦、助産婦、看護婦の資格を持たない人が相談員になることを認める場合、その要件−−講習の内容など−−をどのようにするのか? 二種類の相談員の業務内容をどのように考えるのか? 検討中である。
第五章 届け出、禁止その他
第九条 医師は、第二条、第三条、第四条の規定によって永久避妊手術または人工妊娠中絶を行った場合は、その月中の手術の結果を取りまとめて翌月十日までに都道府県知事に届け出なければならない。
第十条 永久避妊手術または人工妊娠中絶の施行に従事した者、および「性と避妊の相談室」の職員は、職務上知り得た個人情報を他者に漏らしてはならない。その職を退いたあとにおいても同様とする。
第十一条 何人も、本人の意思に反し、第三条、第五条で定める永久避妊手術または人工妊娠中絶を行ってはならない。
第六章 罰 則
第十二条 第十一条の規定に違反して、本人の意思に反する永久避妊手術及び人工妊娠中絶を行った者は、懲役六ヶ月以上七年以下に処する。
2 第五条2項で定める時期以降に人工妊娠中絶を行った医師は、□□□□に処する。
3 第十条の規定に違反して個人情報を漏らした者は、刑法の秘密漏示罪を準用する。
【第六章に関する備考】
◆第十一条違反に対する処罰は傷害罪に相当する適用を考えていたが、傷害罪は罰金刑もあるので、より重罪な刑法堕胎罪第215条に準じることとした。量刑の妥当性については、さらに検討したい。
◆第五条2項で定める時期以降に人工妊娠中絶が行われた場合、処罰の対象は医師のみで、女性は対象としない。
◆本人の意思に基づかない永久避妊手術と人工妊娠中絶では同じ量刑でよいのかどうかも、今後検討する。
付則
(施行期日)
第十三条 本法の成立により、母体保護法を廃止する。
2 この法律は、公布の日から起算して□□日を経過した日から施行する。
【付則に関する備考】
◆この法案は、刑法堕胎罪を廃止することを前提にしている。本会の97年11月法案には母体保護法の廃止とともに「刑法堕胎罪を廃止する」と付則に書いたが、刑法堕胎罪廃止は別途「刑法の一部改正法」によって行うのが筋であるという法律の専門家の指摘を受け、削除した。なお、違法な中絶に対する処罰は「罰則」の章に定めた。