私たちの社会には「女性は子どもを産むもの」という考えが根強くあり、近年は少子化対策として「人口を増やす」政策が強化されています。そのため、出産に関しては政府も母子保健として力を入れてきました。しかし、産まない選択である避妊や中絶については情報も少なく、政府の対策もきわめて不十分です。ところで、中絶はいまだに刑法堕胎罪(1907〜)によって犯罪とされています。中絶した女性と手術をした医師が処罰されるのです。妊娠させた男性はいっさい罪に問われません。ただ、中絶は一定の条件を満たせば堕胎罪に問われずにすみます。その条件を定めた法律は母体保護法といわれます。
母体保護法は、1996年に優生保護法が一部改訂されたものです。この改訂の結果、障害者を差別してきた優生保護法の優生思想にもとづく条文が削除されました。それは女性の立場からも長年求めていたことで、やっと実現したことは評価しています。しかし、女性が強く求めていたリプロダクティブ・ライツ(からだと性の自己決定権)の実現は、この改訂ではまったく言及されませんでした。改訂後の現行母体保護法でも、人工妊娠中絶をするか否かについて、女性は医師の認定と配偶者の同意を得なければなりません。つまり、中絶する当事者である女性の自由意思が尊重されているのではないのです。子どもを産むか産まないか、女性の人生にとって重要なこの決定が、年齢にかかわらず妊娠するしくみをもつ女性本人の意思にまかされること、その決定のために公正で充分な情報とサービスの提供が必要であると、私たちは考えます。産めないときにはまず避妊の情報が、妊娠してどうしても産めない場合は中絶に関する情報が必要です。残念ながら望まない妊娠を100%防ぐことはできないからです。また、産みたい人が望むときに産める環境をつくることが必要です。情報は、性差別・障害者差別を含まない、むしろ是正するものであることが、大切です。
このような私たちの希望を実現するには、法律はどうあったらいいのだろうか? その一案として、私たちは1997年11月に「避妊、不妊手術および人工妊娠中絶に関する法律(案)」をまとめました。そして、手の届く範囲で多くの方々に読んでもらい、意見を求めてきました。手にされた方々のあいだでは、この問題を考える材料として活用されてもいるようです。2000年3月、産婦人科医の団体である日本産婦人科医会(元通称日母)が、母体保護法改正に関する提言をまとめました。しかし私たちにとって、この改正案は必ずしも賛同できる内容ではありませんでした。
当時日母は、自民党を通じてこの提言にそった母体保護法改正に動き出すとのことでした。このような差し迫った動きをみて、私たちは自分たちの法律案をさらに広く公開し、日母案への対案として提案したいと考えました。産む・産まないめぐる法律はどうあったら いいか、当事者の女性の声を今度こそ聞いて欲しい、社会的な議論をつくして欲しいと、強く願うからです。
(2001年4月1日〜法案更新にあたって)
「からだと性の法律をつくる女の会」は、1997年11月に「避妊、不妊手術および人工妊娠中絶に関する法律(案)」を発表しました。以来、さまざまな分野の方々が法案に関心を寄せて下さり、貴重なご質問やご提案を寄せて下さいました。私たちは、それらのご意見を参考に月例会などで討議を重ね、今回新たな修正案「避妊および人工妊娠中絶に関する法律(案)」を作成しましたので、ここに公開いたします。
97 年案と異なる点や条文の意図については、各章ごとに【備考】に記しました。今後もこの「2001年3月法案」をもとに、さらに検討を加えてゆきたいと思います。
「からだと性の法律をつくる女の会」の連絡先
(事務所がないのでfaxでの連絡は以下のところにお願いしています。)
FAX 03-3353-4474 SOSHIREN 気付
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