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【本の紹介】

『障害者家族を生きる』
土屋 葉(つちや よう)著/勁草書房/2,800円

 これは、家族社会学を専攻する著者の博士論文に加筆修正を加えて出版された本です。そう聞くと反射的に'難しい'と思うかも知れませんが、見慣れた景色を新しい切り口から掘り下げることで、より鮮明に見えたり意外なものとの繋がりがわかる、論文ならではの読書の楽しみもあります。これもそんな本です。
 全身性の障害をもつため他者の介護が不可欠である人とその家族−−「障害者家族」を、障害者施策はどう位置づけているのか。どんな規範が形成されて、本人と家族はそれぞれ、その規範をどのように引き受け、家族内部にどんな関係性が生じているのか。丁寧に読み解かれていきます。

 最初に、従来の家族研究の方法論と、「障害者家族」を捉えるうえでの限界について語られます。家族論に関心のある人には面白いはず。それから戦後の障害者施策をたどることで、家族が「介助/扶養する」存在と措定されていることが明らかになります。近年のノーマライゼーション理念の中で、施策は家族について触れなくなるのですが、そのため、実際には介助を行っている家族の存在がかえって見えにくくなっていると指摘されます。なるほど!

 後半にある、障害者本人とその親からの聞き取り調査の分析はとくに面白かった。「障害者家族」の構成員がそれぞれどのような役割を担い、どのように振る舞うかということに、障害者施策が影響を与えていることが、聞き取りから浮かび上がってきます。母親が物理的・精神的に子(障害者本人)と強く結びつき、訓練と介助を行う存在となるのもそのひとつ。それは、子の成長とともに子にとって抑圧ともなり得るため、子が家族からの自立を指向する力となる。しかし、母親にとっては自らの存在意義の確認ともなるため、家族の中に留まり続ける力として働くのではないか。「ここで、こうした母親が『悪者』であると述べたいのではない。」と著者は言います。それは、子についての責任を母親に追わせる社会構造があり、「障害者の母親」以外の生き方が許されない規範があってのことだから。見えてくるのは、ジェンダーの問題なのでした。

 おしまいの方に、子どもが家を離れて一人暮らしを始めた例がでてきます。親子関係と介助が分離された結果、親と子のあいだに自立した人間関係−−「もっとも身近な人間の一人として、お互いを思う」関係が再構築されていきます。これは、「障害者家族」に限らず、近代家族のオルタナティブとなり得るのではないか・・・と、希望のもてる締めくくりです。「障害者家族」の問題は、近代家族そのものの問題につながるのでした。
(by 米津知子)