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 「精子・卵子・胚の提供等による
生殖補助医療のあり方についての報告書」に対する意見


電子メールで厚生労働省宛て送信
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I. 提出者
  1. 年齢:グループなので年齢ではありませんが、発足から19年目になります
  2. 性別:グループではありますが 女
  3. 職業:グループなので記入しません
  4. 氏名:グループ名「SOSHIREN女(わたし)のからだから」
    [グループの概要]
    1982年結成。女性のからだを通して行われる人口政策・優生政策を批判し、堕胎罪と優生保護法の廃止を求めて活動してきました。1997年、第1回加藤シヅエ賞を受賞。母体保護法の問題点も指摘しながら、女性が自分のからだについて自ら決定すること、リプロダクティブ・ライツの確立をめざしています。
  5. 所属団体: なし
  6. 公開に際して上記3〜5の匿名化を希望: 公開可
  7. 連絡先の住所、電話番号:
    東京都新宿区富久町8−27ニューライフ新宿東305ジョキ内
    電話/FAX03−3353−4474
II. この問題に関心を持った理由

人口政策・優生政策に対する批判とリプロダクティブ・ライツの観点から、生殖補助医療のあり方を検証したいと考えて、応募します。

III. 意見

「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療のあり方についての報告書」に対する意見

<総論>
 私たちは、生殖補助医療技術の開発と実施に、次のような疑問と批判を持ってきました。
  • 生殖補助医療技術の多くが、女性の身体に侵襲を加えるものであること
  • 専門家の手を経なければ利用できないものであること
  • 一般の市民に分かりやすい情報が提供されないため、利用者が情報を得て自ら判断することが困難であること
  • 人の身体を道具化する、あるいは資源化・商品化するおそれがあること
  • 将来にわたって、人の心と身体に与える影響が充分検討されていないこと
  • 妊娠出産ができない、あるいはしない女性に対する偏見と差別を助長するおそれがあること
  • 優生学的利用の可能性があること
  • そのため、病気や障害をもつ人への偏見と差別を、助長するおそれがあること
 以上のことから、一般の市民に分かりやすい情報提供、医師と患者の対等な関係の構築、優生思想および障害者と女性への差別をなくす努力が必要であり、これらが行われるまで、生殖補助医療技術の開発と実施をやめるよう求めてきました。

 しかし、こうした問題は省みられることなく、技術の開発と実施はすすんでいます。今回の報告書は、生殖補助医療のあり方に対して一定のルールを設けようという初めての試みですが、既に普及してしまった技術の追認に終始しているとの感をぬぐえません。
 精子・卵子・胚の提供による生殖補助医療は、人間とくに女性の身体に無理を与え、生まれてくる子をめぐる人間関係にも多くの無理を生じます。また、これまでの家族・社会の在り方を変えてしまう可能性をもっています。私たちはそのことを直視しなくてはなりません。にもかかわらず報告書は、この医療の実施を大幅に認めながら、従来の家族観を維持し、かつ補強しようとしているところに、最大の矛盾を感じます。

<各論>

  1. Uの「意見集約に当たっての基本的考え方」について
     「意見集約に当たっての基本的考え方」には、次の6つの項目があげられています。
    • 生まれてくる子の福祉を優先する 
    • 人をひたすら生殖の手段として扱ってはならない
    • 安全性に十分配慮する 
    • 優生思想を排除する 
    • 商業主義を排除する 
    • 人間の尊厳を守る
     これらは、もし精子・卵子・胚の提供を受ける生殖補助医療を実施するならば、最低限欠かすことができないことです。しかし、報告書が出した結論は、これらの条件を満たしているでしょうか。満たそうとしたのであれば、報告書が代理懐胎は禁止したものの、それ以外を容認したことは納得できません。「優生思想を排除する」は、掲げられたこと自体は評価できますが具体性に欠け、実現の保障がないばかりか、むしろ反していると思われる点があります。

  2. IIIの1(1)「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療を受ける条件について」について(p4)
     報告書はここで、「提供等による生殖補助医療を受けることができる人は、法律上の夫婦に限る」とし、その理由は、「生まれてくる子の福祉の優先」であるとしています。しかし、このことで「生まれてくる子の福祉」がまもられるとは思えません。
     近年、家族の形態は多様であることが認められつつあり、法律上の手続きを踏まないカップルや同性同士のカップルに、法律上の異性同士の夫婦と同様の権利を認める国が出てきています。提供等による生殖補助医療そのものが、家族の形態を一層多様化させるにもかかわらず、それを受けることができる人を法律上の夫婦のみに限るのは、不合理に感じられます。また、離婚が増加していることを考えれば、法律上の夫婦ならば生まれてくる子の福祉がまもられると断言することもできません。反対に、将来にわたって、育児に責任を持つことが保障されるのであれば、法律上の夫婦とその他のカップルを区別する理由はないと考えます。

  3. Vの(3)@「精子・卵子・胚を提供する条件」について(p11)
     ここでは、精子・卵子の提供者に年齢制限を設けています。自然妊娠においては行われない年齢制限を、提供等による生殖補助医療を用いる場合には設けること自体に、まず疑問を感じました。女性と男性で制限する年齢とその根拠に違いがあることには、性差別の疑いも感じました。そして、年齢制限の理由として、提供される精子・卵子の「質」を問題にしている点は、優生思想以外のなにものでもありません。これは「意見集約に当たっての基本的考え方」に掲げられた「優生思想を排除する」に、明らかに反しています。このような年齢制限とその理由が認められるとすれば、その影響から、自然妊娠にも優生思想が持ち込まれることをおそれます。

  4. IIIの1(3)C「兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供」について(p13)
     兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供を認めることに反対します。
     本論1(3)のBには「精子・卵子・胚を提供する場合にはに匿名とする」とあり、提供者の匿名性が保持されない場合の問題点を多々指摘しています。また、兄弟姉妹等からの提供を求める理由が、血の繋がりの重視にあることが考えられるとの認識も、示しています。にもかかわらず、匿名性が担保されない兄弟姉妹等からの提供を認めるのは納得できません。
     兄弟姉妹等からの提供を認める条件である「提供する人が兄弟姉妹等以外に存在しない場合」に個々のケースが該当するのかどうか、判断はどのように可能でしょうか?これも非常に疑問です。
     兄弟姉妹等からの提供を認めることが、「生まれてくる子の福祉」よりも、子をもちたい側の「血の繋がりの重視」を優先していることは明白です。これでは、血縁主義を重視する旧来の考え方に、新しい技術が貢献することになってしまいます。

  5. IIIの1(3)F「カウンセリングの機会の保障」について(p20)
     報告書はここで、提供等による生殖補助医療を受ける夫婦と提供する人及びその配偶者に、カウンセリングの機会が与えられなければならないとしています。しかし、提供等による生殖補助医療を受けるとき、あるいは提供を行うときのカウンセリングで、ことは足りるのでしょうか。そうは思えません。
     この医療を受ける側も提供する側も、妊娠・出産・子育てのあらゆる過程で、さまざまな問題に遭遇する可能性があります。とくに、子供にその出自を伝えること、出自を知った子供にどう接するのかといった問題は大きいでしょう。また、出自に疑問をもった子供、知った子供が悩みを抱くことも考えられます。その悩みにどうこたえるかについて、報告書は何も示していません。

  6. IIIの2(2)条件整備A「出自を知る権利」について(p30)
     Aは、提供によって生まれた子が成人した後、提供者の情報を知ることができるとしています。しかし、知ることができる情報は、個人を特定できないものに限られ、さらに提供者が開示を承知した範囲に限定されます。子が知ることができる情報は非常に不十分かつ、不公平であることが予想され、これでは「権利」と言うに値しません。
     また、提供によって生まれた子は結婚を希望するとき、近親婚とならないことの確認を求めることができるとあります。近親婚を避けなければならない理由は書かれていませんが、避けなければならないのであるとすれば、確認は、生まれてきた子に認めるだけでは十分ではありません。提供した人が子をもった場合、その子もまた、複雑な人間関係をもち、自分と血の繋がりのある者と結婚する可能性がある点は、提供によって生まれた子供と同じであるからです。
     提供による生殖補助医療の実施を認め、かつ、近親婚を避けなければならないとするなら、提供者となった人の子供も、結婚しようとする相手との血のつながりを調べざるを得ません。条件整備A「出自を知る権利」には、問題と矛盾があります。

     子供をほしいと望むのは、親になろうとする人です。その望みを精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療を用いて叶えたとき、子供は複雑な人間関係の中に生まれ、結婚しようとする相手との血の繋がりまで調べなければならないのでしょうか。子供が欲しいという希望は、子の負担よりも優先するものなのでしょうか。−−−そのような疑問をもちました。誤解のないように書き添えますが、何らかのハンディをもって生まれることが即その子の不幸であるという意味ではありません。人はさまざまな条件のもとに生まれ、どのような条件を持っていようとも尊重され、幸福に生きる権利があります。その意味で、私たちは優生思想の排除を強く求めています。しかし、あえて人為的に複雑な条件を子供に負わせるべきではないと考えます。どうしても避けることができない場合は、その負担を軽減するために最大限の努力を払わなければなりません。報告書が「意見集約に当たっての基本的考え方」の中に「生まれてくる子の福祉を優先する」をあげたのも、そのためでしょう。しかし先にも述べたように、匿名性の保持に例外を設けるなど、報告書の結論は、生まれてくる子の福祉よりも子供を欲しいという希望を優先しているとしか考えられません。
     子供が欲しいという希望は、持つ人と持たない人さまざまですが、我々の社会には血縁主義と「女性は子供を産むもの」という考え方が根深く、子供が欲しいという願いに拍車をかけ、女性にとって、ときには男性にとっても圧力となっています。
     精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療のあり方を決める上で、「子供が欲しいという希望」を優先することは、「生まれてくる子の福祉を優先する」に反するだけでなく、従来の規範の強化となるおそれもあります。

  7. IIIの2(2)条件整備BCと、W「終わりに」について(p33〜35)
     報告書は、公的審議機関・公的管理運営機関の設置や法律の整備が、3年以内に行われることを求めるとしています。しかしこれらの条件が整ったとしても、これまで指摘してきたように、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療の実施に関しては、まだまだ考えられるべきこと、議論されるべきことが山積になっています。そうした問題を放置して実施を認めることは将来に禍根を残すであろうことから、提供等による生殖補助医療の実施は中止すべきと、私たちは考えます。

  8. 別添「多胎・減数手術について」について
     多胎妊娠の防止がまず行われるべきとしたこと、および、母体保護法を改正して人工妊娠中絶の規定を改める必要はないとしたことは、妥当であると考えます。
2000年4月18日
  東京都新宿区富久町8−27ニューライフ新宿東305
電話・FAX 03−3353−4474
              SOSHIREN女(わたし)のからだから