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「少子化社会対策基本法案」の廃案を求める意見書

 今国会に再上程された「少子化社会対策基本法案」に対し、私たちは以下の理由から本法案の廃案を強く要望します。

I. 少子化社会対策基本法案(以下法案と略す)は、女性の基本的人権を尊重する国際的流れに逆行します。

 歴史的に見て、人口の増減を目的とする政策は、女性の妊娠と出産機能を管理することで行われてきました。わが国には、明治以来の刑法堕胎罪が現在も存在するなど、女性は子どもを産むための道具であるかのように見なされています。
いつ何人子どもを産むか産まないかの選択が、女性の基本的人権として保障されるべきことは、国連の女性差別撤廃条約にすでに明らかです。また、1994年にカイロで開かれた国連の国際人口開発会議以降、「人口問題」の解決には、国家による強制的あるいは管理的な政策ではなく、女性の基本的人権、とくに性と生殖における健康と権利の尊重が重要であるということが、国際社会の共通認識になっています。
しかし法案は「いかにして産ませるか」に熱心なあまり、この流れに逆行するおそれがあります。女性に対して「産むべき」という圧力を高め、産まないまたは産めない女性を差別するような風潮は、絶対につくりだしてはなりません。

II.「人口問題」は地球規模で考えるべき問題です。

 地球規模で考えるならば、「人口増加をいかに抑制するか」が「人口問題」の課題です。人口の減少はむしろ、食糧、貧困、開発、環境、資源、エネルギー等の問題を解消する上で不可欠な要因と考えられています。
しかし法案には、日本という限られた地域のみを見る視点しかありません。わが国の「人口」のありようも、世界共通の問題に照らして考えるべきでしょう。また人口の少ない社会のマイナス面ばかりを強調することなく、それを事実として受け止め、いかにプラス面を引き出すかの発想の転換が必要です。

III. 子どもを持とうとする人の負担の軽減こそが急務です。

 内閣府が行った「社会意識に関する世論調査」(平成14年)で「理想の子どもの数」を聞いたところ、「2人」と答えた人の割合が38.5%,「3人」と答えた人の割合が45.2%。「2人」と答えた人の割合は、男性の20歳代,30歳代と女性の20歳代で高くなっています。国が法律で号令をかけなくても、子どもを欲しいと思う人はいるのです。しかし実際に生まれる子どもの数が増えないのはなぜでしょう。

 現代の日本社会には、出産・子育てを重荷と感じさせる要素がたくさんあります。とくに女性にとって、その負担は増しつつあります。子育てにともなう経済的負担、身体的負担は勿論ですが、それだけではありません。次々に開発される出生前診断の技術は、「病気や障害を持たない健康な子どもを」と生まれてくる子どもに条件をつけます。しつけや教育や子どもの健康に関しては、親、とくに母親の責任が強調されます。また、依然として婚姻外の子どもに対する差別があります。これまでもエンゼルプランなど国の施策がありながら、子どもの数が増えないのは、こうした負担や差別が少しも取り除かれていないからでしょう。

 法案の第6条にある「子育てに夢を持つ」ことができる社会を目指すのであれば、「人口を増やす政策」ではなく、子育ての過度の負担をなくすことこそが大切です。国は、産もうとする人、生まれてくる子ども、育て方、家族のありように画一的な価値観を押しつけるのではなく、どんな場合でも、生まれた子どもと子育てする親たちを全力で支える姿勢を示すべきです。

 最後に、「少子化社会」への対策によって、女性に対し「子どもを産め」という圧力が高まり、産まない選択をする女性への非難が強まること、また産めない女性への抑圧が増大することがあってはならないことを、再度強く訴えたいと思います。
 以上のことから、私たちは「少子化社会対策基本法案」の廃案を強く要望します。

2003年6月5日
SOSHIREN女(わたし)のからだから
からだと性の法律をつくる女の会