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――妊娠・出産・育児に関する政策は、あなたには無理かも――
柳沢大臣、いったい、なにを、反省したの?



 「産む機械、装置の数は決まっているから、あとは一人頭でがんばってもらうしかない」という柳沢厚生労働大臣の発言は、失言というより思わず本音が出てしまったと私たちは理解しました。あるいは厚生労働省の少子化対策の本質を表現してしまった、とも言えるでしょう。
 その後、「女性の心を傷つけた。反省しています」と謝罪をくりかえしましたが、なにを、どう反省しているのか、さっぱり伝わってきません。大臣は「人口統計学の話をしていて、イメージをわかりやすくするために」と発言直後に弁解しています。統計を見ながら「日本の人口は少ない、もっと増やそう」とか「この国は多すぎる、減らすべきだ」という、この視点こそが、女性を、そして人間をないがしろにした人口政策の発想なのです。
 日本では、戦前・戦中の時代、「産めよ・殖やせよ」の号令のもと、女性を「子宝部隊」とおだてて、露骨な人口政策が行われました。避妊も禁じられ、中絶した女性や医療者は堕胎罪で牢獄に入れられました。栄養不足のなか、無理な妊娠・出産で命を落とした女性も多くいます。
 戦後になっても、女性を産む装置とみなし、人口調節の手段にする発想はなくなりませんでした。今度は一転して人口を減らすために、堕胎罪はそのままにして中絶を許可したのです。日本が戦後、経済的な豊かさを享受できた背景の一つとして、中絶によって人口を減らしたことが挙げられているほどです。

 女性が「機械」だとしたら、子どもは「工業製品」でしょうか。柳沢大臣の発言は、この点でも人口政策の本質をあらわしています。製品に欠陥が出ないよう品質管理するのが人口政策の発想。量だけではなく質も調節したいのです。実際、戦後の1948年、堕胎罪の例外規定としてできた優生保護法は、「不良な子孫の出生を防止する」ことを目的としています。ハンセン病や特定の障害をもつ人は子どもをつくらないよう、本人の意思に反しても、妊娠できなくする手術(不妊手術)や中絶手術をさせたのです。
 これは、日本だけのことではありません。人口を減らすために、産むことを許されず、危険な避妊手段を強要され、金品と引き換えに不妊手術を受けさせられる国もあります。また別の国では、中絶が法律で禁じられているため、危険なヤミ中絶をせざるをえない女性たちもいます。産む装置として人口政策の対象にされることは、人生の希望や健康を奪われ心と体を傷つけられること、場合によっては命を落とすことにつながるのです。
 そうした状況を変えるのが、リプロダクティブ・ライツ(性と生殖に関する権利)です。子どもを産むかどうかは、恋愛やセックスという個人的なこと、結婚や仕事とも関係し、人生に大きな影響を与えます。だからこそ、すべての個人、とりわけ女性が、子どもの数、出産間隔、出産する時期を自由に決めることができ、そのための情報と手段を得ることが人権として尊重されなければいけないのです。産まない・産めない女性を非難することは、絶対にあってはなりません。
 このようなリプロダクティブ・ライツは、人口政策に苦しめられた世界各地の女性たちが提起したものですが、1994年にカイロで開かれた国際人口開発会議において、国連や各国政府が政策に取り入れました。なぜなら、女性の心身を管理支配するよりも、リプロダクティブ・ライツを尊重する方が、望ましい人口を保つことにつながると認めたからです。日本の厚生省(当時)もその大切さを認識したはずです。1996年、優生保護法から「不良な子孫の出生を防止する」という目的が削除されて母体保護法に変わったのも、リプロダクティブ・ライツや人権尊重の流れを反映したものだと私たちは理解していました。
 ところが、柳沢大臣の発言は、女性を数字合わせの装置として扱う人口政策の発想を露呈してしまったのです。単なる失言ではありません。また、大臣を任命した安倍首相も1月4日の年頭記者会見で「子どもは国の宝であります」と発言しています。教育基本法改定で愛国心を盛り込み、防衛庁を省に昇格させた安倍内閣の姿勢と考えあわせると、この発言は戦前の「産めよ・殖やせよ」時代を髣髴させます。
さらに2月6日、柳沢大臣は「若い人たちは、結婚をしたい、子どもを2人以上持ちたいという極めて健全な状況にいる」「健全な希望」などと発言しました。子どもを産み育てられる条件の整備は大事なことです。しかし、結婚して子どもを2人以上もつことを「健全」だと強調する意識は、結婚しない・子どもをもたないことは「不健全」だという非難につながります。すでにこの「健全」意識は、母子家庭への支援のカット、婚外子差別などにあらわれています。
 多様な生き方、暮らし方、家族のあり方を認め合い、一人ひとりが尊重されることが、子どもを育てやすい社会、大人も生きやすい社会だとSOSHIRENは考えます。

 一連の発言に象徴される女性観、子ども観、人生観をもつ安倍首相・柳沢大臣のもとでの少子化対策は、過去の人口政策の発想から脱却できず、女性の人権、人間の権利を損なう形で行われるのではないかと、危惧せざるをえません。
厚生労働大臣の立場にある人は、これまでの人口政策の過ちから学び、女性の人権を守るリプロダクティブ・ライツに立脚して施策に取り組んでください。もちろん、もっとも深く学ぶべきは、首相です。
2007年2月7日
SOSHIREN 女(わたし)のからだから