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日本産科婦人科学会御中

「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査
に関する指針(案)」に対する意見


 私たち「SOSHIREN女(わたし)のからだから」は、女性のリプロダクティブ・ライツの確立に取り組み、産むか産まないかを国家が管理・強要する人口政策に反対し、女性の選択が尊重されるべきだと主張して1982年から活動しているグループです。昨年10月18日には貴会宛に「新型出生前診断に関する意見」もお送りいたしましたが、今回は、指針(案)についての意見を以下に述べます。なお、以下では「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査」を「新型検査」と表記します。

1)「指針(案)」の文章には、誠意と苦悩を感じさせる多くの言葉が費やされています。この文書作成にいたる各方面の努力には敬意を表します。しかし入念で詳細な説明がなされ、ひとつの事柄に対する断り書きがなされればなされるほど、なぜそこまでして「新型検査」の実施を検討しなければいけないのか、疑問が増すばかりです。

2)臨床遺伝専門医の資格を有する産婦人科医、小児科医、認定遺伝カウンセラー、遺伝看護専門職などなどの専門家が、検査前、検査後の段階ごとに、わかりやすく説明をして患者の理解を求めること自体は、この検査にかぎらず重要なことであり、拡充が必要だと思います。しかし、この「新型検査」は、従来の母体血清マーカー検査にくらべて確率が高いとはいえ、「指針(案)」にあるように、診断の確定には羊水検査が必要だということを繰り返し説明しないといけない、敢えて言えば「中途半端な」検査です。確定診断になり得ない検査のために、受診できる体制を整えようとする方向性そのものが問題だと感じます。

3)これだけの労力をかけて「新型検査」を受けられるようにすることよりも、医師不足が指摘される産婦人科、小児科において取り組むべきは、通常の検診において妊娠中の女性の悩みや不安に向き合うこと、分娩においてハイリスクの妊婦が病院をたらい回しにされないよう安心して出産に臨める周産期医療の充実、妊婦や子を育てる親が気兼ねなく受診できるようにするための産婦人科・小児科医療への人的・財政的拡充ではないでしょうか。カウンセリング体制の充実も、こうした通常の現場でこそ生かしてほしいと考えます。

4)「新型検査」の内容を知れば知るほど、妊婦やその家族の安心どころか、不安を煽ることにつながる危険が大きいと思います。
 「指針(案)」の「V母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査の問題点」の「妊婦が動揺・混乱のうちに誤った判断をする可能性がある」、「妊婦が得られた結果を確定的なものと誤解し、その誤解に基づいた判断を下す可能性がある。」といった記述は、この検査がもたらす不安や動揺の原因が女性の側にあるかのように認識している点で、疑問を感じます。「誤った判断」だと、いったい誰がどのように判断するのでしょうか? 問題は、妊婦に「動揺・混乱」を招くような情報提供の仕方にあるのではないでしょうか。さらにいえば、「新型検査」自体が、正しく判断するのが非常に難しいという問題をはらんでいるのではないでしょうか。

5)もし「新型検査」に唯一のメリットがあるとすれば、それは、「指針(案)」の「IV 母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に対する基本的考え方」の5つめの段落「従来羊水検査等の侵襲的手技による染色体分析を受けていたような、染色体の数的異常の胎児を出産する可能性の高い妊婦が、羊水検査等の前に母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査を受けることにより、侵襲的検査を回避できる可能性のあることを論拠とする意見もある。」のように思えます。新たに「本検査を行う対象」としてX-2にある「客観的な理由」(同W3つめの段落中の言葉)を設定するのではなく、このケースにあたる人だけが受けられる手だてを講ずればよいのではないでしょうか。
障害のある人への差別・偏見が拡大されかねないこと、4)で触れた妊娠期間中に不確定な検査が加わることによって不要な悩みが増えわずらわされるデメリットなどを考慮すると、貴学会の「指針(案)」よりもさらに限定的な使用に限ることが必要だと考えます。
なお、2)でも触れたように、そもそも医療の場において、患者・利用者やその家族が理解できるような説明や相談は、もっと充実する必要があると私たちは考えます。「指針(案)」X-3に書かれた、「新型検査」を行う前と後に、医師が妊婦およびその配偶者に説明し理解を得るべきことは、羊水検査を含めて現在あるすべての出生前検査を受けようとする妊婦に必要な説明であり、実施されるべきです。

6)胎児の障害を中絶の要件とする「胎児条項」を母体保護法に設けるべきとの意見があります。胎児条項は、優生保護法から優生学的理由を削除した母体保護法改正の趣旨に逆行するものであり、リプロダクティブ・ライツの重要な一部である、どんな状態の子どもでも安心して妊娠・出産する権利を侵害する危険があります。「新型検査」の実施がなされるか否かにかかわらず、「胎児条項」を設けることに私たちは反対します。
 と同時に、十分な情報提供、相談やカウンセリングがあったうえで、多様な選択が保障されることも求めます。
 障害があってもなくても、生まれてくる子が歓迎される社会、安心して産み育てられる社会、そうした支援体制が保障されるなかで、産むか産まないかを一人一人が選べる社会であってほしいと願います。

2013年1月21日
東京都新宿区富久町8−27ニューライフ新宿東305
電話・FAX 03−3353−4474
SOSHIREN女(わたし)のからだから