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◆『中絶がわかる本 MY BODY MY CHOICE』の
「訳者あとがき」の訂正文について◆


 私たち「SOSHIREN 女(わたし) のからだから」は、2022年4月、『中絶がわかる本 MY BODY MY CHOICE』(ロビン・スティーブンソン著/アジュマブックス刊 2021年12月)の「訳者あとがき」197頁の文章の一部が事実誤認であるとの認識から、該当箇所の訂正をお願いするメールを版元アジュマブックスと訳者の塚原久美さん宛にお送りしました。
 私たちが疑問を感じたのは、次の一文についてです。
(197頁19行目〜22行目)
中ピ連以外のリブの女性たちは、障がい者運動からの批判と向き合うことで堕胎罪廃止を叫ぶのはとりやめた一方で、経済条項が廃止されては中絶を受けられなくなると考えて、「優生保護法改悪阻止」の運動を展開しました。

 その後、数度にわたるやり取りの後、6月下旬、アジュマブックスから、下記の<お詫びと訂正>をホームページに掲載し、「重版時には該当箇所を訂正します」、とのご報告をいただきました。
<お詫びと訂正>。
197ページに誤りがございました。
『中ピ連以外のリブの女性たちは、障がい者運動からの批判と向き合うことで堕胎罪廃止を叫ぶのはとりやめた一方で、経済条項が廃止されては中絶を受けられなくなると考えて、「優生保護法改悪阻止」の運動を展開しました。』
ではなく、正しくは
『中ピ連以外のリブの女性たちは、障がい者運動からの批判と向き合いながら、話し合いを重ねて多面的な見方を獲得した末に、中絶の禁止以外にも目を向け、「優生保護法改悪阻止」「堕胎罪撤廃」の運動を展開しました。』
です。
お詫びして訂正いたします。


 2022年4月から6月末までの経過を、もう少し詳しくご説明します。

 「訳者あとがき」197頁の一文に私たちが疑問を感じたのは、次のようなことです。
 1972年から始まった優生保護法改悪反対運動で、障害者運動の批判を受けて「堕胎罪廃止を叫ぶのをとりやめた」女性グループや個人は、私たちが知る限りありません。また、障害者運動が女性運動に対して、堕胎罪廃止を叫ばないよう求めた事例も、私たちには確認できませんでした。
 この時期、堕胎罪は、障害者運動と女性運動が意見を出し合った主要な論点ではなかったというのが、私たちの認識です。

 このため私たちは「訳者あとがき」の該当部分は事実誤認ではないかと考え、これが広く流布し、引用されるなどして「事実」として定着してしまうことを危惧しました。
 そこで、アジュマブックスと訳者の塚原さんに、該当部分の記述の根拠となる資料についてお尋ねし、「中ピ連以外のリブの女性たちは、堕胎罪廃止を叫ぶのはとりやめた」は事実とは言えないので、重版時には訂正するなど何らかの対応を検討していただきたいとお願いしたのでした。
 その後、アジュマブックスから該当箇所の「根拠となる文字資料が不足していた」として訂正文案が示され、文案についてのやり取りが行われました。その過程でSOSHIRENから指摘した一文の差し替え案も提案しました。これは採用されませんでしたので、下記に記録として記しておきます。
(SOSHIRENが提案した文案)
リブの女性たちは、障がい者運動からの批判と向き合いながら、「優生保護法改悪阻止」「堕胎罪撤廃」の運動を展開しました。

 このようなやり取りを経て、6月末に、アジュマブックスホームページに冒頭で紹介した<お詫びと訂正>が掲載されました。
 以上が経過報告です。

 70年代の優生保護法をめぐる女性グループと障害者グループの「対立」については、様々な文章が研究者などによって書かれています。そこでは、「産むも産まぬも女が決める」等のスローガンが、障害者からの批判を受けて、「産める社会を産みたい社会を!」へと変化したという指摘・分析が複数見られます。 これに関しても、そう言い切れるのか、もっと他の要因や主張も存在したのではないか、そもそもこの二つのスローガンは、どちらかがどちらかに「発展」したものなのか等、決して単純ではない問題を含みこんでいます。
 いずれにしても、障害者運動が女性運動に対し「堕胎罪廃止」を叫ぶなと要求し、女性運動がそれに応じて「堕胎罪撤廃」の主張を取りやめた事実はない、と私たちは捉えています。しかし今後も、現在の問題に引きつけながら、入手できる範囲での資料を読み返し、運動に関わった人たちの話も聞きながら、確認し、考え続けていくつもりです。

〈最後に〉
 私たちが過去の運動について振り返り、知ろうとするとき、多くの場合は保存された印刷物に依拠することになります。「訳者あとがき」への指摘の過程で、SOSHIRENも70年代の資料を参考にしました。同時に、過去の資料の読み解きには慎重であった方がよいということも考えさせられました。
 例えば、全てが残っているわけではなく、失われた記録や印刷物もある。作成された時点での書き間違いや、保存したときに年代特定の間違いが起きた可能性もある。何よりも、書かれた文章のどこに注目し、どのような意味を見出すかによって、何種類かの解釈が成り立ちます。
 記録から過去の運動を知ろうとするときには、これらを前提として、慎重でありたい。かつ、間違いはいつでも起こり得るので、他の人の解釈に疑問を感じたときには、お互いに率直に意見を言えることがとても重要だと思いました。そこから、より深く幅広い読み解きができれば、誰にとってもプラスになるのではないでしょうか。

2022年8月28日  SOSHIREN女(わたし)のからだから