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「障害者差別禁止法 要綱案」その3


 「障害者政策研 障害者差別禁止法作業チーム」が提案している「障害者差別禁止法 要綱案」の第二章の9「出生」について、ソシレンは女の立場がら再検討を求めてきました。ニュース216号(03.11.11発行)218号(04.1.20発行)に続いて、「障害者差別禁止法 要綱案」をめぐるその後を伝えます。

 216号に書いたように、03年10月11日付けで、ソシレンの「対案」を作業チームに送りました。それについて作業チームからのお返事はないものの、「要綱案」は全体の見直しが行われ、【要綱案−−第2次案】ができて第二章の9「出生」も変わりました。(詳しくは、218号を見てください)
 ソシレンとしては、【第2次案】の「出生」にも問題を感じています。何度も書いてきましたが、障害者差別を無くすのは当然のことだし、そのために法律も力を発揮するでしょう。「障害者差別禁止法」をつくること自体に異議はないのです。人口政策の中であるいは出生前診断などの技術で、女性は社会が障害をもつ人の出生を回避する手段にされている。この政策に変更を求めるために、女性は障害者と一緒に闘えると思っています。問題は、要綱案の「出生」の項目が、女性のリプロダクティブ・ライツを危うくする表現であること。まずはそのことを、作業チームに理解して欲しいのです。

 さて、年が明けた1月25日の午後、都内でこの「出生」の項について話し合う機会をもちました。出席したのは、DPI女性障害者ネットワーク、からだと性の法律をつくる女の会、ソシレンの、計19人。DPI女性ネットのメンバーとソシレンは、1994年のカイロ人口・開発会議、95年の北京「世界女性会議」に一緒に参加して、北京では優生保護法についての分科会を共催(この時はフィンレージの会も一緒でした)。97年には、「女(わたし)のからだから合宿」も共催しました。そうした機会に優生保護法のこと、産む産まないを誰がを決めるかについて考えてきました。それだけでなく、DPI女性ネットのメンバー二人も、「出生」の項について作業チームに意見を送っていたことを聞いたので、ぜひ一緒に話したかったのです。

 当日、次のようなことを話しました。
  • 障害者の立場としては、「障害者差別禁止法」は早く成立させたい。女の運動もそのことに異議はない。外から、障害者と女性が対立しているように見えるとしたら、困ってしまう。しかし、「出生」の項目がこのまま「要綱案」の中にあるのにも反対。
  • 受精卵診断が現実のものとなりそうな今、選別的中絶だけをを問題視して禁止するのは効果の点でも疑問。医療技術、生殖技術のなかに優生学が入り込むことを禁止するというようなことが必要ではないか。
  • 障害者の問題のなかでも、女性であることからおこる問題があり、「障害者」、「人」という言葉だけで表せないことがある。「禁止法」の中に「女性障害者」という項目が必要ではないか。
 そして、「出生」という項目をおかない方向で、まずDPI女性ネットのメンバー有志(註1)で意見をまとめ、差別禁止法作業チームに送ることにしました。
(註1)1980年代中頃に活動を始めたDPI女性ネットは、メンバーが忙しくなったりしてこのところちょっとお休み状態でしたが、03年秋に再結成、新たに動こうとしています。1月25日の会合とその後の「対案」作成にに参加したのは、再結成したDPI女性障害者ネットワークという団体そのものでなく、以前からの女性ネットのメンバーです。
 そうして3月半ばまでの間に、青海恵子さんを中心にメールでやり取りしながら、DPI女性ネットの有志による「対案」ができ、それをもって、3月29日夜に作業チームと話し合いをしました。以下にその「対案」を掲載します。また、DPI女性ネットのメンバー堤愛子さんから3月27日に送られた意見も、そのうしろに付けました。
  「対案」作成したメンバーたちは、堤さんの意見をもっともだと思ったので、さらに検討する予定です。
 作業チームと話し合いのことは、ページ数の都合もあり、またこの次に報告します。
(米津)

■DPI女性ネットの有志による「対案」

 障害者差別禁止法 要綱案の2次案を読ませていただきました。全体を通して感じるのは、U−9「出生」の項が全体から浮いている、という印象です。その理由は、これ以外の項目はすべて主体が、すでに現在、生存している障害をもつ人であるのに対して、「出生」の項の主体は明らかに「障害をもつ胎児」だからです。
U−9「出生」にはこう記されています。

1 出生に関する権利
(1)障害をもつ人は、出生において差別を受けない権利を有する。
(2)妊娠、出産に際し、いかなる障害をもつ人も生きる権利を有する。

(1)の「障害をもつ人」という表現は、一般にすでに出生を通過した「人」をさしますが、述部からすると主語は「障害をもつ人」ではなく、「障害をもつ胎児」ということになり、主体は「障害をもつ人」ではなく、「障害をもつ胎児」を意味すると解釈されます。つまりここでは、「人=胎児」になっていると私たちには読めました。
(2)の「いかなる障害をもつ人」というのも、補足説明から判断すると、主体の「人」は明らかに、人になる可能性のある、「障害をもつ胎児」ということになります。このように(1)と(2)で規定しているのは、「障害をもつ胎児の生きる権利」と読めます。

2 出生に関する差別禁止
(1) すべての人は、妊娠に際し、障害を排除するための治療・検査を強制されてはならない。
(2) すべての人は、障害を理由とした選択的中絶をしてはならない。

(1)と(2)の主語はいずれも、「すべての人」になっていますが、「妊娠に際」するのも「中絶」をするのも、「すべての人」ではなく、身体的に産む準備のある「女性」です。

U−9の、1が意味する「障害をもつ胎児の生きる権利」は、障害をもたない胎児の生きる権利をも「包含」することになり、容易に「すべての胎児の生きる権利」と読みかえられる可能性があります。2の「障害を理由とした選択的中絶をしてはならない」は「中絶の禁止」、つまりは刑法に堕胎罪が生きているかぎり、障害の有る無しにかかわらず、中絶に殺人罪適用の道を開く可能性があります。
さらには、「要綱案」のなかに、このままのかたちで「出生」という項目をおくことは、補足説明にある「「産む産まないは女性が選択する」という主張を否定するものではありません。」という説明とも相容れないと考えます。むしろ、意図せずとも、女性の人権を危険にさらすこととも言えます。
 以上のことから、要綱案のなかにこのままのかたちで「出生」の項目を置くことには反対です。けれども、ここでの主張はできるだけ活かしたいと考えますので、以下のような対案を出したいと思います。

《対案》
1.(要綱案の)前文の三段目の段落に[ ]内を挿入する。

障害をもつ人は[、出生から死に至るまで、]差別されることなく、権利の主体として政治・経済・社会のさまざまな活動分野に平等に参加する、侵されることのない権利をもっている。」

2.U−9「出生」を「生殖」とする。

U−9 「生殖」

1.障害のある子どもを持つ権利
(1)すべての人は、障害のある子どもを持つことにおいて、いかなる差別も受けない権利を有する。
(2)すべての人は、障害のある子どもを持つことにおいて、敬意と尊敬を持って対応される権利を有する。


2.障害のある子どもを持つことに対する差別禁止
(1)いかなる人も、障害のある子どもの出生防止を目的とした検査の強制をしてはならない。
(2)いかなる人も、障害のある子どもの出生防止を目的とした、不妊手術、避妊、人工妊娠中絶の強制をしてはならない。
(3)いかなる人も、障害のある子どもの出生防止を目的とした検査技術の開発・実施を行ってはならない。

3.配慮義務

(1)すべての人は、障害のある子どもの出生防止を目的とした着床前診断、出生前診断、障害のみを理由とした人工妊娠中絶が、「障害者差別」または「障害者差別に根ざした不公正な社会環境の結果」であることを自覚し、差別の除去と障害者に不利益な社会制度の改革に努めなければならない。
(2)医療提供者は、障害のある子どもの出生防止を目的とした着床前診断、出生前診断、胎児の障害のみを理由とした人工妊娠中絶を希望する人々に対し、専門家による障害および障害をもつ人の人生の可能性について、肯定的で偏見のない情報提供、およびカウンセリングを行わなければならない。ただし、カウンセリング後は、自由意思による妊婦の決定があくまでも尊重されなければならない。
(3)国、地方公共団体は、障害のある子どもの誕生を喜んで迎え入れることのできる社会づくりを目指して、各関係機関に障害児・者への偏見を取り除くプログラムを、障害当事者とともに作成し、提供しなければならない。

[補足説明]
受精卵診断(着床前診断)をはじめとして、難病や遺伝病、障害を理由に、結果的に「生命の選別」を可能にする先端医療技術がつぎつぎと開発、実施されています。これ自体が、障害のある子どもを持つ権利を阻んでいます。生命の選別は優生思想に他なりません。生殖にかかわる医療の先端技術の分野から、この優生思想を排除することが急務と考えます。

3.「女性障害者」の項の新設

U−? 「障害をもつ女性」

1.障害をもつ女性の権利
(1) 障害をもつ女性は、障害者に対する差別だけでなく、性による差別も受けることなく、社会生活・私生活の各分野に平等に参加し、活動する権利を有する。
(2) 障害をもつ女性は、障害者に対する差別とともに性による差別をも受ける立場にあることについて、充分に理解され、差別から回復するための支援を受ける権利を有する。

2.障害をもつ女性に対する差別の禁止
(1)障害をもつ女性に、性差別にもとづいて創りあげられた女性像を押しつけてはならない。また、健常者の女性を標準とした女性像を押しつけてはならない。
(2)女子差別撤廃条約、男女雇用機会均等法、男女共同参画社会基本法、DV防止法等が女性に対して保障するすべての事項は、障害をもつ女性に対して、健常者の女性に対すると同様に保障されなければならない。その実施にあたっては、障害をもつ女性の個々の条件に応じて適切な配慮がなされなければならない。
(3)障害をもつ女性に、社会生活の各分野、性と生殖の分野において、その意志に反することを強要してはならない。

3.配慮義務私
(1)すべての人は、障害をもつ女性が暴力、とりわけ性的暴力の対象とならないよう、常に注意と配慮をすべきである。
(2)すべての人および国、地方公共団体は、障害をもつ女性が自信をもって発言し行動できるよう支援するプログラム、また取り巻く個人や社会がそれを理解し、障害をもつ女性の人権を高めるためのプログラムを、障害をもつ女性当事者とともに作成し、提供しなければならない。

4.補足説明
この社会の人間の半分が女性であることを考えれば、「障害者」と言われる人間の半分も女性である。この女性障害者の問題の独自性を、包括的な「障害者差別」の問題に埋没させてはならないと考える。性差別を解消するための法制度はすべて、女性障害者にも実質的に適用されるよう、求めていくべきだ。
〈堤愛子さんからの意見〉
  • 女性障害者の項 これで言いと思います。
  • 「出生」の項  第二章の中では、なくすことに賛成です。
  • U−9 「生殖補助医療・出生前診断(註2)」 内容的には、まったく賛成です。
    ただ、要綱全体を見渡したとき、第二章の中で、ここだけ主語が「すべての人」となる「浮いた感じが」しました。「第二章」は「障害をもつ人への差別禁止と権利に関する基本事項」となっているので、「すべての人は」を主語とするこの内容を「二章」に置くこと自体、無理があるのではないかという気がしました。
★私の意見
「生殖補助医療・出生前診断」で書かれた趣旨を「第一章 総則」の中に一項設けて盛り込むか、あるいは独立させ、「第二章 生殖補助医療発展下における、障害をもつ人の出生について」という章を新設してはどうでしょうか?
「対案」の文体は、第二章に載せる前提で書かれているので、多少文体が変わることになるかと思います。